空き家に関する神奈川県下の各自治体の現状について

空き家を取り巻く環境は日々変化し続けています。2018年に行われた「平成30年住宅・土地統計調査」によると総住宅数のうち、空き家の割合は全国割合で13.6%。今後さらに空き家が増える見込みとなっています。
その中でも神奈川県は、10.7%と全国平均を下回る空き家率となっています。しかし今後少子・高齢化が進むにつれて、空き家対策は一層重要となってくるでしょう。
今回は神奈川県下の自治体における空き家の状況とその取り組みについてまとめました。

◆横浜・川崎エリア

横浜市は、全戸数のうち10%が空き家の状態であり、空き家の発生件数も増加傾向にあります。そのため、横浜市では「第2期空家等対策計画」を2016年に制定。
①空き家の予防②空き家の流通・活用促進③管理不全な空き家の防止・解消④空き家の跡地活用の4段階に分け、対策を講じています。
また、空き家発生を防ぐために特例措置として、譲渡所得の 3,000 万円特別控除という枠を設けています。相続人が空き家を積極的に売却できる仕組みもあります。
また、空き家に関する相談窓口も広く開設。神奈川県宅地建物取引業協会をはじめ、弁護士会・司法書士会といったさまざまな専門家に相談できる体制が整っています。

一方川崎市では、「川崎市空家等対策計画」を2016年に策定。翌2017年より計画が実施されています。1998年から2013年までの空き家率は10%程度、ほぼ横ばいとなっています。全国平均値が上昇していることを踏まえても、低い水準を保っているといえます。ただし、空き家の数は上昇傾向にあり、対策の必要性があります。
川崎市は現在もゆるやかに人口が増加しており、また空き家率もほぼ横ばいとなっていることから、空き家になる前の「予防的措置」が重要と位置付けられています。

  1. 予防的取り組みの推進
  2. 総合的な相談体制の構築
  3. 住宅の良質化支援
  4. 空き家の流通化促進の4つに分け、それぞれ対策を講じています。

中でも、③の良質化支援においては、住宅のバリアフリー化や、耐震化などの一部費用負担をすることでより長く快適に住める住環境の充実化にも力を入れています。

◆県央エリア

神奈川県央エリアである厚木市、海老名市、座間市、大和市、綾瀬市。それぞれの自治体で空き家対策を行っています。

●厚木市
2013年の厚木市の調査によると市内の空き家率は13.6%。これは同じ年の神奈川県の空き家率11.2%を2.4%も上回る数字です。また全国平均の13.5%をも上回っており、全国的に見ても空き家が多い地域と言えます。
空き家総数のうち賃貸用住宅の割合が最も多いこともわかっています。厚木市では、
①老朽空き家解体工事補助金
②要耐震改修空き家取得事業補助金
の補助金を制定しています。①は老朽化して住めなくなってしまった空き家を解体する際の費用の一部補助として最大50万円までを支給するもの。また、②は、市内の旧耐震基準の空き家を購入し居住する人へ、最大90万円の補助金を支給するものです。
また、譲渡所得の 3,000 万円特別控除の枠もあります。多方面から空き家利用の促進をはかっています。

●海老名市
海老名市は、さまざまな団体と協定を結びネットワークを通じて空き家対策に乗り出しています。2017年には「市宅建業者協力会」、2018年には県行政書士会海老名・座間支部とそれぞれ提携を結び、専門家の意見を取り入れながら空き家の減少化を進めています。

●座間市
座間市では、2013年に「座間市空き家等の適正管理に関する条例」が施行されています。
「所有者等は空き家にしないよう管理不全な状態にしないよう管理しなければならない」ことや、「市民が管理不全な空き家を発見した時は市長に対し当該空き家の情報を提供する」ことなどが盛り込まれています。
また、2017年には「公益社団法人座間市シルバー人材センター」に「空き家等の適正管理の推進に関する協定」を締結。空き家の現状確認や庭木の剪定などを通して、空き家の管理不全を防ぐ取り組みをしています。

●大和市
大和市では、空き家相談を「街づくり計画部 建築指導課 建築安全係」で受け付けています。

●綾瀬市
綾瀬市でも、空き家相談を受け付けているほか、譲渡所得の 3,000 万円特別控除に関わる交付も受け付けています。

◆県西エリア

県西エリアは、神奈川県2市8町(小田原市・南足柄市・中井町・大井町・松田町・山北町・開成町・箱根町・真鶴町・湯河原町)のことを指します。特にその中でも湯河原町は空き家率が20%強と全国平均から見てもかなり高めの水準となっている地域です。

●湯河原町
人口減少が顕著で、今後も人口は減っていくと予想されている湯河原市。2013年の調査では空き家率が20.8%と極めて高く、早急な空き家対策が求められています。
そこで湯河原町では、2019年に「湯河原町空き家対策等計画」を策定。
①空き家等の発生抑制
②空き家等の適切な管理の促進
③空き家等の利活用及び流通の促進
の3段階に分け、取り組みを行っています。湯河原町は温暖な気候で温泉街を持つ風光明媚な観光地としても知られています。空き家を観光資源として活用する取り組み、さらには移住支援なども視野に入れた多角的な空き家活用を行っています。

●小田原市
小田原市では、2017年より「貸したい人」と「借りたい人」と、また不動産関連団体の三者をつなぐ「空き家バンク」を開設。住宅としてだけではなく、店舗やコワーキングスペースといった商業利用の空き家活用も進めています。

●山北町
人口約1万人の小さな町、山北。定住人口減少の対策として早くから手を打ってきた町でもあります。空き家バンクを活用するほか、町全体で空き家対策・移住・定住支援に乗り出しています。

●南足柄市
2013年に行った調査では南足柄市の空き家率は10.7%。神奈川県の平均値とほぼ同じ数値です。行政書士、宅地建物取引相談といった専門的な相談から、管理不全における相談など幅広い相談窓口を設けています。
またユニークな取り組みもあります。「ふるさと納税」の返礼品として、南足柄市シルバー人材センターによる「空き家管理サービス」を受けることができるというもの。遠方に住む人でなかなか空き家の管理が行き届かない人に向けたひとつの効果的なサービスと言えるでしょう。

◆全体的に県の取り組み

空き家率は10%程度と低いものの、空き家の個数は48万戸と全国で3番目に空き家が多い神奈川県。空き家バンクの活用の他、空き家の活用セミナーの開催、さらには空き家の所有者に管理意識の向上を促すダイレクトメールなどの送付も行っています。
予防的措置と同時並行で管理保全、また空き家の有効活用などを積極的に進めています。

まとめ

全国平均からみると、やや空き家率は低いものの、各地域によってそれぞれ空き家対策は進められています。土地柄や資源を活かしまちづくりの一環として空き家対策を進める自治体や、空き家を利用して移住・定住促進につなげようとする自治体など、それぞれに特色があります。
空き家の有効活用が、そこに住む人々の暮らしを豊かにするひとつの起爆剤となる、と言って良いでしょう。